介護保険制度の創設から約20年。介護を取り巻く環境は大きく変わり、介護保険制度も改正を重ねてきました。第8期介護保険事業計画が策定される2021年現在、仙台圏での高齢化の現状はどうなっているのか。今後の課題やいま私たちができることは? 創刊から「介護の手引き」の監修を手がける、東北福祉大学の阿部裕二教授にお伺いしました。
仙台圏の中でも高齢化率に地域差
全国的に高齢化が進む中、日本はこれから団塊の世代が後期高齢者となり、社会保障費の急増が懸念される2025年問題に加え、団塊ジュニア世代が65歳以上になる2040年問題を控えています。一方で、少子化により15歳~64歳の現役世代は年々減少していることから、人口構造的に2040年問題はより深刻と言えるでしょう。
富谷市、大和町、大郷町、大衡村、塩竈市、多賀城市、七ヶ浜町、利府町、松島町、仙台市、名取市、岩沼市、亘理町、山元町の14市町村からなる仙台圏の高齢化率は、他の県域に比べれば低く抑えられています。しかし、過疎地域に指定される山元町の高齢化率(2020年3月31日現在)が40.7%なのに対し、仙台市は24.1%、富谷市は20.5%と2倍近く開きがあり、仙台圏の中でも今後ますます高齢化率に地域差が出てくると予想されます。この地域差を踏まえて介護サービスのあり方を考えた時、一律のサービスでは地域によって異なるニーズをまかないきれません。地域の特性を活かし、地域の事情に則ったサービスを提供する「地域密着型サービス」をどう整えるか。
市町村の腕の見せ所になって来ると思います。また、高齢化率が進めば進むほど、住民同士の助け合いによる互助や、自分たちでいかに健康管理をしていくかによる自助も大切になってくるでしょう。
第8期介護保険事業計画で変わること
現在、2021年~2023年度を計画期間とする、第8期介護保険事業計画が作成されています。確実なのは「介護保険料の負担が重くなることは避けられない」ということです。介護保険制度が始まった2000年当時、3兆6千億円だった介護保険の総費用が、2018年には11兆円を超え、20年間で約3倍に増加しました。今後、介護サービスを受ける人がさらに増え、お金がかかる以上は誰かが負担しなければなりません。負担を国民にどう分散するか。介護予防や自立支援に注力して給付の増え方をなだらかにし、サービスの効率化を図りながら、費用の伸びをどれだけ抑えられるかが焦点になってきます。
第8期のもう一つの特徴は、近年の自然災害発生状況や新型コロナウイルスの流行をふまえ、災害時における体制整備について盛り込まれることです。災害によって介護施設が被害を受けた時、入所者をいかに支援するか。一つの自治体が壊滅的になった場合、どう対応するのか。施設間の連携や自治体を超えた市町村間での連携のあり方が示されるでしょう。さらに、高齢者のみならず、障害を持った方、お子様、生活困窮者の方すべてが、住み慣れた地域で継続して生活できる地域共生社会を目指し、包括ケアをさらに深めることが組み込まれます。高齢者は介護保険、障害者は障害福祉といった従来までの縦割りをできるだけ排し、例えば高齢者と障害を持つ方が同じ事業所でサービスを受けられるように、介護保険と障害福祉に共通の制度を設けるなど、高齢者も障害を持つ方も子育て世帯も、丸ごと一つの窓口で相談・支援ができる体制づくりが進んでいく予定です。
最大の課題は人材の確保
高齢化社会における最大の難問は、介護人材の確保かもしれません。大学で福祉を学んでも、介護の現場に就く学生はそれほど多くありません。マスコミなどで労働条件や賃金の問題等が取り沙汰されていることもあり、学生本人にやる気があっても、親御さんが望まないケースもみられます。実際に現場で働く卒業生の声を聞いてみると、決してネガティブなことばかりではなく、やりがいと使命感を持って働いている方がほとんどです。医師が命を救うように、介護は命を支える仕事。社会的に意義のある職業として、もっと認知されることを願わずにはいられません。
人材不足解消のために2019年4月、外国人の就労を認める在留資格「特定技能」が新設されました。しかし、これまで介護福祉士の資格を取得した方は、残念ながら全国で数百人程度にとどまっています。外国人の労働力だけに期待をするのではなく、生活を含めて手厚く支援していかないと、国家資格を取得して現場に定着するところまではなかなか広がっていかないだろうと感じます。また、人材を埋める一つの方法として、AIの活用や介護ロボットの開発・導入にも期待が寄せられるところです。
介護保険を知ることから始めよう
少子高齢化、地域格差、人材不足と介護をめぐる課題が山積みの中、私たちにできることは何か。それは、介護保険とはどういう制度なのかを知ることだと思います。この介護の手引きを教科書代わりにしてもいいですし、介護保険の内容はネットでも簡単に調べられます。若い人にとって介護なんてまだ無縁と思うかもしれませんが、まず親が直面します。ずっと先の話ではありません。いざ親に介護が必要となった時、子どもが直接介護に関わらなくとも、相談に乗ったりサービスを手配するといった支援も出てきます。その時に焦らないためにも、今のうちから知っておくことが非常に重要です。介護の手引きを創刊する際に、地図やイラストを入れて、初めて介護について知る方々にも親しみやすい内容にしようと考えました。参考資料として学生にも配り、授業でも使用しています。啓蒙書として、ぜひ仙台圏以外の方にも読んでいただけたらと思います。
もう一つは、親や自分が介護保サービスを利用することに、ネガティブにならないでほしいということです。生活の質を維持するために積極的にサービスを受けるんだ!くらいの気持ちで、引け目など感じず
に胸をはって利用してほしい。介護サービスは誰もが直面する可能性が高い、助け合いの制度なのですから。
市町村独自の保険外サービスにも着目を
介護保険で利用できるサービス以外に、市町村が独自に実施している高齢者向けサービスにも目を向けてみてください。介護保険と組み合わせることでさらに生活の質を向上させられる、保険外サービスについて知ることは、とても有用です。自治体によって内容や名称は異なりますが、例えば寝具の洗濯サービスや配食サービスは、多くの市町村で実施しています。民間の警備会社や警察と連携し、徘徊認知症高齢者を捜索するサービスを行っている自治体もあります。介護サービス=介護保険というイメージに縛られて、介護保険が使えないと何の手助けも受けられないんだ…と思ってしまいがちですが、実は介護保険の外にニーズを満たすサービスがある可能性があります。介護保険にはそもそも限界があります。介護のニーズのすべてを介護保険で満たすことはできません。そこで、自治体がどういう受け皿を作っているか、広い視野で見ていく必要があるのです。
withコロナ時代の介護にAIの可能性
新型コロナウイルスによるパンデミックは、介護業界にも大きなインパクトをもたらしました。コロナ禍において国や行政はテレワークを推奨していますが、見て、触れ合って話すことを基本に人対人で行う介護サービスは、とりわけリモートワークに馴染みません。しっかりと感染予防対策を取りながら行うしかありません。面会が制限される中、ご家族とのコミュニケーションについては、タブレット端末を導入し、ビデオ通話で面会サービスを行っている施設もあります。デイサービスなどを休止する代わりに、オンデマンドのかたちで自宅できる体操プログラムを提供をしたり、ソーシャルディスタンスを守った上で、職員が個別に家庭訪問を行うなど、工夫して対応しているようです。
withコロナの時代を乗り越えていくには、モニターによる見守りや人工知能によるコミュニケーションロボットの導入など、介護サービスでのICT(情報通信技術)の活用は不可欠です。これを機に、開発のスピードが加速していくかもしれません。